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仙台家庭裁判所 昭和63年(少)632号 決定 1988年3月25日

少年 K・Y(昭50.12.30生)

主文

この事件を宮城県中央児童相談所長に送致する。

少年に対し昭和63年3月25日から向こう2年間に、通算180日を限度として、強制的措置をとることができる。

理由

(申請の要旨)

少年は、昭和60年8月ころから昭和63年1月までの間30数回にわたつて家出をし、この間石巻から無賃乗車で浦和まで行つたことから昭和62年10月14日○○署より宮城県中央児童相談所に通告され、昭和63年1月27日同所に一時保護されるに至つたにもかかわらず、その後も同年3月3日までの間無断外出を13回(20日間)も繰り返し、無断外出時には車上荒らし、万引、自転車盗などの非行に及んでいるものである。少年の無断外出、家出とそれに伴う非行には歯止めがない状況であつて、ある程度の拘束性を持つ施設での指導が必要であり、国立教護院に措置するため児童福祉法27条の2に基づき在院期間中に180日を限度とする強制的措置をとることの許可を求める。

(当裁判所の判断)

一  本件記録及び審判の結果を総合すると、申請の要旨のとおりの事実のほか以下の事実を認めることができる。

1  少年は浦和市で生まれ育ち、幼少時から友人に暴力をふるうなどの問題行動がみられたところ、小学校4年時に父方の実家のある石巻市の小学校に転校したが、夏に浦和に里帰りした後は、頻繁に家出をして、浦和まで無賃乗車をするようになり、このため両親も手を焼き、一旦浦和の母方の実家で生活をすることとした。しかし、少年は母親が石巻に戻ると今度は浦和の家を無断で出るなどの行動に及び、結局再度石巻で生活をすることとなつた。少年はその後も家出を繰り返して、昭和63年1月25日家出先の浦和で発見されて連れ戻され、宮城県中央児童相談所に一時保護されるに至つたにもかかわらず、更に一時保護所を抜け出ては無賃乗車、侵入盗、車上荒らし、万引、自転車盗、バイク盗、無免許運転をするなどの行動が止まず、同年3月5日に当庁に本件申請がなされた後も無断外出をして、万引、バイク盗、無免許運転等の非行に及び、同月15日観護措置をとられたものである。

2  少年は、能力については中の下(IQ=88)の水準にあるものの、善悪の判断に欠け感情を統制する能力が弱いうえ、即行性が強いため自分の関心や欲求に基づき先の見通しのないまま衝動的に行動しやすい(これらの点については医学的には「多動症状群」と判定されている。)。また、共感性に乏しく対人不信感が強いため他人との信頼関係を作りにくく、学校や一時保護所などの集団の生活において不適応状態に陥りやすいことや、罪障感が希薄で内省が深まりにくいことなど、少年については性格の偏りの大きさを指摘することができる。少年のこれまでの問題行動はまさにこれらの資質上の問題点の現われとみることができる。

3  少年の家庭についてみると、父と母の間に加え母と祖母の間の折り合いが悪いため少年の周囲はつねに不安定な状況にある。そして、父親が少年に対し拒否的で暴力で臨むことが多いため、少年が父親を嫌つている一方、母親は少年のいうなりであるなど両親の指導に関しては一貫性を欠いているということができる。既に両親は度重なる少年の家出や窃盗などの非行に困惑して監護の意欲を失い、施設での指導を強く望んでおり、ほかに少年の指導監督について資源となるものは見当たらない。

以上の事実のほか少年の生育歴や処遇経過等審判に現われた諸事情を総合すると、少年の健全な育成のためには、この際家庭と切り離したうえで専門的な指導のもと福祉上の処遇を受けさせることが必要であると認められる。しかし、既に指摘した少年の資質上の問題点やこれまでの少年の行動傾向、とりわけ、小学生のときからの度重なる家出とその際の行動範囲の広がり、更に一時保護所で無断外出が頻発し、その間も次々と非行を繰り返してきた状況に照らすと、少年を通常の教護院のように開放的な施設で処遇することは困難であり、強制的措置をとることのできる施設において指導することが必要であるといわなければならない。

むろん、本件において強制的措置の許否を判断するに際しては、少年が現在小学生であり年齢も12歳3か月に過ぎないことについて十分配慮する必要はあるが、他方少年が4月から中学に進学して新しい生活を始めやすいこと、強制的措置をとる場合に少年が入所することになる国立教護院武蔵野学院の所在地である浦和には少年の伯父らがいて少年と接しやすいこと、少年の母親も実家が浦和にあることもあつて、可能な限り同学院に少年を訪ねて面会する意向であることなどからみると、今後少年が同学院の生活に適応することを期待することができるものと考えられる。

以上により、本件申請はこれを許可するのが相当である。

二  そこで、強制的措置をとりうる期間について検討すると、強制的措置許可申請事件については同措置をとることのできる終期を明確にするために期限を付し、更にその中で通算してとりうる通常日数を定めることが必要であると考えられるところ、少年の資質、年齢などからみて、今後指導に要する期間については流動的な点があることは否定できないものの、現時点において徒に長期間を予定して強制的措置をとりうるとすることは相当ではなく、むしろ、少年に関し、施設収容による保護処分を考慮することが可能となる14歳を一つの基準とすることとし、強制的措置をとりうる期間として本決定から2年間を限り、180日を限度とすることが相当であると思料する。

よつて、少年法23条1項、18条2項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 小川秀樹)

〔参考〕児童送致書

宮中児発第58号

昭和63年3月5日

仙台家庭裁判所長殿

宮城県中央児童相談所長

児童送致書

下記児童を児童福祉法第27条第1項第4号<第27条の2>の規定により貴所に送致します

児童

本籍地 宮城県石巻市○○字○○××番地

現住所 〃〃○○××-××

現在収容施設

氏名 K・Y

<男>女

昭和50年12月30日生(満12才2月)

保護者

現住所 石巻市○○××-××

氏名 K・K

年令 37才

続柄 父

職業 タクシー運転手(○○タクシー)

送致を必要と認める事由

本児童は昭和60年10月29日父に叱られたことから家出し、無賃で浦和市の母方実家に行き、昭和61年9月2日と9月9日にも同樣に家出し上野駅で警察に発見保護され昭和62年9月1日同樣に家出し無賃乗車で浦和市に行ったことから昭和62年10月14日石卷署より児童相談所に通告のあったものである。このほかにも事件として立証されていないものの昭和60年8月~昭和61年3月に2回、昭和61年4月~9月に8回、昭和62年1月~3月に3回、昭和62年4月~昭和63年1月に25回位家出をくり返している。

本児の家出に歯止めがかからなくなったことから昭和63年1月27日児童相談所一時保護所入所に至るが、入所後も1月30日、31日、2月4日、5日~7日、11日(3回)~12日、13日、14日、18日、20日~24日、29日~3月2日(2日に2回)と3月3日に至るまで13回20日間にわたって無断外出をくり返し、無断外出時には無賃乗車はもちろん、侵入盗、車上荒らし、万引き、自転車窃取、原付自転車窃取等の非行をくり返している(立件はされていない)。在宅時にも立証された事件としては2件(昭和63年1月9日○○に侵入、現金2500円窃取、同日停泊中の船舶に侵入現金7000円窃取)の2件のみであるが学校場面等で判明している非行は多い。

本児の無断外出、家出とそれに伴なう非行には歯止めがなく、家庭はこのため崩壊しかかっており、ある程度の拘束性をもつ施設で最低限の社会規範を習得させることが必要である.より強い枠組の中での指導が望まれ国立教護院に措置するため在園期間中に180日間を限度とする強制力行使を求め本件を送致するものである。

参考事項

知能 ○鈴木ビネーIQ92(S62.11.20実施)

○WISC言語性IQ86、動作性IQ80全検査IQ80(63.2.10実施)

性格 ○感情のコントロールが弱く、ささいなことでカッとしたり気分が変わったりし我慢できない。

強い者には媚び、弱い者には横柄である。対人不信感が強く信頼関係はつくりにくい。

落ち着きがなく、ルールのある遊びはできない。責任感はない。

健康状態 ○良好

備考

○添付書類 児童記録

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